来 歴

空との対話


あなたはいつたい誰なのですか
あなたは永遠に高く
私は死ぬまで低いという単純な伝説が
私に危険な道を踏ませかねないのです
ふところ深く飛翔する
小鳥をみごとに生かしている広さ
杉の木に鋭い輪部をあたえている高さ
すべての動物の上はるかに君臨するもの
あなたはそのように巨大な空なのですか

或る日あなたは右往左往して
退屈な社交辞令のいくつもをまき散らしたり
途方もない嘘を
あれもこれも並べたてたりする
不適な詐欺師
あなたのあやつるからくりは
あなたを私をさえぎる一片の雲を
複雑にからんだ心理の影に見せ
実は現代の荒野に似ている無名の世界を
いかにも高邁な思想の倉庫にしたてて
私をだましおおすつもりだ
別の日あなたは怠惰な独裁者
あなたの周囲をめぐる風が
もやにもやを吹きつけて
みんなを昏迷のただなかへ追いやるから
あなたの値うちを
ほんものだと思う人はすくなくなり
歳月はこれ以上無意味なものがないくらい
遠くなり
空は千年一日のただの空になる

空 あなたは虚空 空なるもの
人間が外へ向かつてあけひろげた
七彩のはてしない幻影
うつり気で気ままな花の紅である私自身が
何ものかに対して
空であるような気が今日は致します
うつろなもの
むなしいもの
気むずかしいもの 冷酷なもの
するとあの華麗な青さは
かしこい妥協にすぎないのですか
あの底の底まで私を陥れてやまない強さは
あなたはいつたい空なのですか
空とはいつたい誰なのですか

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